インターネット広告の限界


 これまでに述べてきた通り,インターネット広告はもはや,我々が知る従来の「広告」ではなく,すでに自分の欲望が具体的に意識されている人に向けたPOP広告である。例えて言うならば,「靴を買いたい」と思っている人に対して,数多くの靴ブランドの中から自社銘柄の靴を選択させることはできても,靴を買いたいという気持ちが顕在化していない人に対して,自分たちの靴のインターネット広告を選択させることはできないのである。


 したがってインターネット広告は,従来「広告」が持っていたブランディング機能を持たないし,また世論を形成するような機能,俗に言う「空気を作る」力を持たない。かつてマスメディア広告が持っていた「社会を変える」力は,ほとんど持ち得ないと言えよう。


 インターネット広告では,紙媒体のように,自分が求める情報の周辺に存在する情報に対する偶然の接点を作ることができず,テレビCMのように,偶然の出会いを強制されることによって顕在化していない接触者の欲望を喚起することができない。それは情報入手のための検索を中心とした能動的な利用スタイルが多くを占めているためであることは,再三指摘してきた通りである。


 そういった環境の中,一方では例えば「Yahoo! JAPAN」がCSR(企業の社会的責任)活動のひとつとして,自社媒体のバナー広告スペースを使って,地震などの災害発生情報を表示する,また様々な社会的問題に関する啓発活動の支援を行うなどの活動を行っている。インターネット上での「偶然の出会い」を意味のあるものにしようとする,こうしたインターネット広告における公共的広告の展開状況と成果についても,今後注目して行く必要があろう。



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