マスメディア広告モデルの適用


 新たな広告媒体としてのインターネットに着目した広告代理店は,従来のマスメディアにおける広告のビジネスモデルをインターネットにも適用させようした。その展開においては,当時の広告業界にとって理解しやすい,バナー広告をその代表とするディスプレイ型広告を,インターネット広告のモデルとしたのである。


 当時の様子を当事者の一人であった電通の長澤秀行(当時,サイバー・コミュニケーションズ社長)は,後に以下の通り述べている。

 「電通のネット事業の歴史は,日本のネット広告の歴史とほぼイコールなんです。 11年前の1996年4月にヤフーが立ち上がった時,僕たちはソフトバンクの孫(正義社長)さんたちと一緒にネット広告の専門会社を作った。ほとんどの人がブラウザーすら見たことがない時代ですよ」

 「そこから電通が率先して,バナー広告のサイズから料金体系までネット広告市場の基礎を作ってきた。テレビや新聞の広告を作っている人間が,見よう見まねでホームページを作り始めてね。時間がかかったし,苦労もいろいろとあったんです。でも,苦労があったからこそ,日本のネット広告はここまで発展したんだと思います」[10]


 媒体の中に広告を掲載するための販売用スペースを規定し,その枠を広告代理店が確保する。広告代理店が広告主へのセールスを行い,スペースを埋める広告を集めてくる。まさに広告代理店主導による,インターネット広告市場へのマスメディア広告モデルの適用が成立したのである。


 このような動きは,当時のインターネット広告の効果のとらえ方にも,色濃く反映されている。日本広告主協会のディジタルメディア委員会が1997年から1998年にかけて行ったバナー広告の効果検証実験の結果として導き出したインターネット広告の価値は,「マスメディアとしての価値」と「インタラクティブメディアとしての価値」であると整理されている。マスメディアとしての価値は,「バナー視聴価値」であるとされ,具体的には以下のようなものであるとしている。

 「バナー広告には,広告主企業の指定する任意の情報が含まれる。これはバナー広告の掲出が,視聴者が企業のロゴ,商品名,広告コピー,画像等を視聴することを意味するため,一定の広告効果を期待できることは明らかである。そして一般にバナー掲出は不特定多数に対して行われるものであり,ここで期待される広告価値は,いわゆるマスメディアの広告価値と同様の性質を有するものであるということができる」[11]


 この当時,バナー広告は見られるだけで広告効果があり,その効果は,少なくとも屋外広告や交通広告などの看板広告と比較できるレベルのものであると考えられていたことが分かる。


 こうした「バナー視聴価値」を認めるならば,ポータルサイトに掲載されたバナー広告は,アクセスしたWebサイトに偶然バナー広告があったというような受動的接触であっても,インプレッション効果によりWebサイト利用者からの認知が得られるとなるところであろう。しかし,固有の目的を持って当該Webサイトにアクセスしている利用者にとっては,そのバナー広告は単に同一平面上に存在しているに過ぎず,自ら選択して受容しない限り認知され得ないと考えられる。


 実際,1998年にインターネット利用者に対して行われた「クリックしたくなるバナー広告について」を問う調査(インプレスA&D実施)では,「プレゼント付きの広告」が67%で第1位となっている[12]。このように,懸賞などの明確なインセンティブ(誘因)とセットでなければ,媒体接触者の関心を引くことが難しいというのが,この時期のインターネット広告の実態であった。


 さらにインターネット広告は,そもそも広告が掲載されているWebサイトに自ら主体的にアクセスしてきた人に対してしか露出できない,つまり,媒体利用者の能動的接触を待つ必要があるという弱点があった。


 その一方で,先の実験においてもう一つ認められた効果,「インタラクティブメディアとしての価値」こそが,インターネット広告の最大の特徴なのである。

  • 参考文献

[10]日経BP編:『グーグルに負けない(第2特集 電通が挑むメディア総力戦)』,日経ビジネス,2007年5月14日号,pp.52-53, (2007).
[11]社団法人日本広告主協会 ディジタルメディア委員会編:『インターネットバナー広告効果検証実験レポート』,p.54,(1998).
[12]日本インターネット協会編:『インターネット白書’98』インプレス,p.95, (1998).



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