2方向に分かれた対応


 これらの課題に対する対応は,大きく2つの方向に分かれた。


 ひとつは,技術の進化を反映した「リッチメディア」化によって,クリック率の向上を狙うという方向である。従来,画像や文字を用いていた広告表現に,動画や音声を加えることで表現力を高めたり,利用者のマウスの動きに応答するようなインタラクティブな広告が誕生したりして,それらは「リッチメディア広告」と呼ばれるようになった。


 それまでのバナー広告は静止画像1枚,あるいは複数の画像を順に表示するアニメーションgifを使った「パラパラマンガ」のようなクリエイティブが中心であった。1990年代後半,マクロメディア社によって開発された「フラッシュ(FLASH)」と呼ばれるソフトウェア群によって,Webサイト上でアニメーションや動画を扱うことが容易となる。こうした技術を取り入れ,マウスの動きによって拡大する「エクスパンド広告」,Webサイトの上を浮遊したり覆いかぶさるように展開したりする「フローティング広告」など視覚訴求を強めた新しい広告表現スタイルが次々と生まれ,より一層インターネット利用者の目を引く広告表現へと進化していった。同時に,より注目を集めるようにという狙いから,広告サイズの大型化が進んだ。


 これらの対応は,インターネット広告の代表格であるバナー広告はディスプレイ型広告であるとの認識のもとで,インプレッション効果を追求しようとして生まれ出た発想である。リッチメディア化,サイズの大型化を進め,ディスプレイ型広告としての機能を強化しようとした。まさしく従来型広告の思考の延長線上にある対応策である。


 2つめの方向は,成果報酬型の広告メニューの投入によって,インターネット利用者の少なさというデメリットを補おうとする流れである。インターネットのインタラクティブ性を活かした形で,掲載した広告が規定した一定回数クリックされるまで掲載を行う,あるいはクリック数に応じて料金が決定する,といったサービスを提供する「クリック保証型広告」が本格的に出現し始めた。


 わが国では98年にサイバーエージェント社が「サイバークリック」という名称でクリック保証型広告のサービスを開始したほか,バリュークリック・ジャパン,ダブルクリック,リクルート(ISIZE)なども同様のサービスを開始した。


 この動きは結果的に,インターネット広告の質的変化を決定的にするきっかけとなる出来事となった。「クリックさせる」ことが最優先の目的である広告,すなわち今までの「広告」の概念とは明らかに異なる新たなサービスが登場し,その姿が明確に立ち現れてきたのである。クリック数によって広告成果の把握が可能であるという段階を越え,クリック数という成果そのものを保証する「クリック保証型広告」を実現したインターネット広告では,従来型の広告ではとらえにくかった広告の費用対効果を明確に捕捉できる。


 こうした流れが,従来型の広告ビジネス,すなわち媒体の中に広告枠を確保するというビジネススタイルと,良い枠を押さえることが競争優位につながるという原理を,崩壊へと向かわせる第一歩となった。


 以上2つの対応の大きな違いは,前者は企業の広告費を獲得することをターゲットにしたビジネスであり続けたのに対し,後者は結果的に,よりパイの大きい,企業が持つ広義の販売促進費用全体を獲得し得るビジネスとなっていったことである。現在では,インターネット広告は広告主にとって投入費用対効果が明確な成果報酬型の広告メニューが存在するゆえに,従来SPや人的販売にかけていたコストの一部を割いて振り向けるだけの意味がある,魅力的なサービスとなっているのである。



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