当時の広告ビジネスにおける行動原理


 わが国の広告代理店は,テレビ放送開始時に「電通」が果たした役割に見られるように,新しいメディアの立ち上げに関与し,その中でより良い広告スペース,広告枠を確保することが,ビジネスにおける勝利につながる(4)という認識があった。


 1980年代後半にはバブル景気と歩調をあわせて,わが国における広告ビジネスも活況を呈した。総広告費も右肩上がりとなり,広告出稿のニーズに対してむしろ広告を掲載する媒体が不足気味であるという認識が生まれた。このことから,広告の掲載が可能となる媒体開発の優先順位が上がり,1990年代にかけて雑誌の新創刊,CATVや衛星放送といったニューメディア広告の開発が急激に進んだ。


 こうした事業環境を背景とする中で,Webサイト上に広告のための販売用スペースが目に見える形となって確保されているバナー広告は,良いスペースや枠を確保することを行動原理としていた,わが国の広告代理店の志向にうまく適合した。バナー広告が出現したことによって,わが国では既存の広告代理店主導によるインターネット広告ビジネスの本格展開がスタートすることになったのである。

(4)中瀬寿一:『日本広告産業発達史研究』法律文化社,(1968)の「第三章 戦後における広告産業の本格的成立」や,永井龍男:『この人 吉田秀雄(文春文庫)』文藝春秋,(1987)などに詳しい。



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