インターネット以前のデジタル広告


 インターネット広告が誕生する1994年以前に存在したデジタルメディアにおいて,広告掲載はどの程度行われていたのであろうか。


 インターネット時代が訪れる以前,アメリカではコンピュサーブ(CompuServe),AOL,わが国ではニフティサーブPC-VANなど多くの事業者が,パソコン通信サービスを提供していた。しかし,商用データベースへの接続サービスなどをその起源とし,接続時間や転送データ量に応じて課金するようなビジネス形態を採る各社は,自社のサービスに広告を組み込むことについては概して消極的であった。唯一,アメリカのプロディジーProdigy)だけが1990年に収益源の一つとして広告を取り入れ,この分野に取り組んだ[2]ものの,他事業者は追随せず,アメリカにおいてオンライン広告の販売が本格的に始まるのは1995年以降のこととなった。


 わが国のパソコン通信に関する記録を見ると,フリーテーマの掲示板などにおいて,「ソフト売ります」「ビデオ売ります」といった類の,情報発信源が明らかでなくやや信憑性に乏しい告知文を中心に,売買などを募る文字広告が数多く掲載されていたことが分かる(3)。これは街の掲示板やローカル雑誌,広報誌,新聞などのいわゆる「三行広告」と呼ばれるような案内広告スペースに掲載される「売ります・買います」広告の延長線上ととらえることができる。


 これらは「クラシファイド広告」と呼ばれ,その後も新聞やフリーペーパーなどの紙媒体に掲載されるのが常であったが,現在ではアメリカを拠点に世界展開を進めている「Kijiji」を始め,インターネット上のサービスとしても広く展開されている。そのサービスの浸透により現在,特にアメリカにおいて新聞紙面上のクラシファイド広告の需要が大きく奪われる状況となっている。

(3)『PC-VAN:広告利用記録』(1998.5.24),
(http://kh.sagesword.com/page2/6p2.html),2009年10月1日取得,などに当時のログとともにその記録が残されている。

  • 参考文献

[2]Robbin Zeff,Brad Aronson(西和彦訳):『インターネット広告論』流通科学大学出版,pp.14-15, (2001).



目次および出典